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第40話 夜空へ
あの年、チャトランは、別れのときが来たと悟ったのではないでしょうか。そして、別れの日を自ら選んだのではないでしょうか。
春、チャトランは、大学生になったしゅんくんを見送りました。くーちゃんが大学院に進む姿も見届けました。そして、おねえちゃんの婚約が決まったとき、見るべきものは見た、去るべきときが来た、と思ったのかもしれません。でも、まだ死ぬわけにはいかないと、チャトランはがんばりました。別れの悲しみや衝撃をお母さんひとりに引き受けさせるわけにはいかないからです。そのころのお父さんは海外出張が多くて、あまりおうちにいませんでした。おうちにいつもいたのは、お母さんとチャトランだけだったのです。ところが、秋になって、結婚を控えたおねえちゃんが、すべてを受け止めてくれるあの頼もしいおねえちゃんが、七年ぶりにおうちに帰ってきました。このときしかないとばかり、チャトランが息を引き取ったのは、おねえちゃんが帰ってきてから二週間後のことでした。
その前日、チャトランはみんなにお別れの挨拶をしました。チャトランの様子がおかしいというので、遠くにいた者もみんな駆けつけました。動物病院に入院することになったのですが、いつもなら泣いていやがるチャトランなのに、そのときだけは、暴れもせず、しがみつきもせず、ちゃんと背筋を伸ばして「ニャー」と言いました。その姿に安堵したみんなは、それぞれの居所へと散っていきました。その夜、あの「ニャー」が、チャトランの別れの挨拶であったことを、みんなは知ることになるのです。
チャトランはいなくなりました。どこへ行ったのでしょう。でも、そもそも、チャトランがどこから来たのか誰も知りません。くーちゃんに公園で拾われる前はどこにいたのか、さっぱりわからないのです。チャトランは煙となって夜空に昇っていきました。三日月がくっきり浮かぶきれいな星空でした。チャトランはそこへ帰っていったのかもしれません。
(2009.9.13.)
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