ギリシャ随想シリーズ (2) 女性の褒め言葉

 ギリシャの首都アテネは、女神アテナの名前に由来しています。
 アテナは「燦めく瞳のアテナ」と呼ばれました。神としてのアテナの職域は広く、
 知恵にも芸術にも戦いにも秀でていました。これらすべてを「燦めく瞳」という
 ひと言で言い表したのです。詩人の言葉の偉大さというほかありません。

 同じような意味の、別の形容語もあります。「フクロウの目をしたアテナ」。
 こちらの方が古い形だと思われます。人間を動植物に擬して褒める表現は、
 民族を問わず、古代詩歌によく登場するからです。腰のくびれた女性を蜂の
 スガルにたとえ「スガル乙女」と称えたのは万葉集ですし、仁徳天皇が皇后の
 腕の白さを大根にたとえたことを古事記が伝えています。大根と言われて
 皇后が怒らなかったのは、当時の大根は品種改良前で、もっと細かったから
 でしょうけど。

 ちなみに、腕の白さを枕詞に冠した女神がギリシャにもいます。女神の筆頭格、
 ゼウスの妻ヘレがそうです。形容語は「白い腕(かいな)の女神」。腕の白さと
 いうのは、洋の東西を問わず、高貴な女性への褒め言葉であったのかもしれ
 ませんね。

 (2004年2月28日)

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