ハマっ子ノスタルジー

『映画ファン(2)』  ロマンポルノからATG
(第12話)
                             広瀬裕敏

 洋画ファンから邦画ファンになるのに偶然の転機があった。
 高校時代、伊勢崎町2丁目の新築雑居ビルに洋画二本立ての映画館を発見した。二週間に一度のペースで演目が代わった。家から歩ける距離なので、お得な回数券まで買った。
 一年くらいたって三ヶ月ほど間をあけて行ったところ、なんと日活ロマンポルノの常営館に変貌していた。回数券は数回分余っていた。窓口で回数券の払い戻しを要求すると、経営が代わっているからと拒否され、代わりにそのまま回数券をつかって入場してもよいと言われた。
 かくして高校2年生からポルノ映画を観ることになった。(回数券の事情は言い訳かもしれない。)
 既に白川和子、田中真理の主演映画はなかった。田中真理は一度警察にひっぱられ、左翼学生の絶大な支持を集めていた。
 「ワイセツ」とか「発禁」とかいう単語は、その言葉の響きだけで高校生を刺激するに充分だった。
 高校3年の授業中に、発禁となった雑誌「面白半分」(6ヶ月ごとの編集長の交代制でそのときは確か野坂昭如が編集長だった)に掲載された「四畳半ふすまの裏張り」(永井荷風原作と言われる)のコピーを友人が回覧した。
 後に「四畳半」を原作とするロマンポルノも宮下順子主演で作られた。宮下順子は名優だった。「赤い髪の女」はロマンポルノからキネ旬ベストワンになった。中上健二の原作である。ちなみに当時のATG映画の名作のほとんどは中上健二の原作である。
 宮下順子以外ひいきの女優は、片桐夕子、山科ゆり、原悦子、風祭ゆきといったところである。
 いかにも制作費が安いのがわかるポルノ映画を観ていて、いつしか監督の情熱の濃淡に気づくようになった。神代辰巳、藤田敏八といった監督陣である。のちに根岸吉太郎、森田芳光もロマンポルノを撮った。
 ロマンポルノ監督に引っ張られるかたちで、ATG(アートシアターズギルド)作品を好んで観るようになった。
 場末の映画館と貧乏な学生にぴったりの映画だった。
 「心中天の網島」「竜馬暗殺」「少年」「エロス+虐殺」「あらかじめ失われた恋人たちよ」「津軽じょんがら節」「祭りの準備」「青春の殺人者」「サード」「ヒポクラテスたち」
 「青春の殺人者」は中上健二原作、長谷川和彦監督、相米慎二助監督の名作である。中上は熊野の被差別部落出身、長谷川は東大アメフト部のキャプテン、相米は中大第4インターの書記長だった。
 私は早熟を切望している「遅れてきた少年」だった。

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