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上床 和則



第49話 コモロ通信 その40

 2014年4月にアンジュアン島に再赴任してきて驚いた。「酒販売店」ができた。

 決して闇ではない。陳列棚には、一通りの種類の酒(ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ジン、ワイン、ビール等)が鎮座している。
 こんな日がアンジュアン島にやって来るとは思いもよらなかった。

 さて、アンジュアン島からグランドコモロ島の首都モロニに出張で移動すると「都会に来た」と、日本人でありながらお上りさん状態になってしまう。早速、首都モロニのある大型スーパーで醤油を購入した。今までの経験上、アフリカ地域で購入した醤油というと日本産以外の物は、アクが強すぎて煮物や焼物にしか向かないと認識していた。アンジュアン島に戻って醤油を舐めてみた。これは、いける。刺身にも耐え得る品質のものである。商標は「Grand Jury」で、タイで生産、フランスで販売とある。インターネットで調べるとフランスの大手スーパーCARREFOURが販売している。やるもんだ。

 出回る商品が変わるとともに、教育も随分と様変わりして来た。日本ではなじみの薄いバカロレア(大学入学試験)というフランスの制度がコモロにもある。このバカロレアに合格するためのお受検が、加熱気味である。まだ、学習塾や家庭教師といったものはコモロには普及していないようだが、小学校からランク付けがあり、教育熱心な家庭は越境して入学・送迎通学させたり、有名な私立学校を受検させたりしている。高校選択ともなるとさらに大変なようで、特に離れ小島のアンジュアン島には進学校が少なく、首都モロニの進学校入学を子供に託す親も少なくない。

 水産学校にて漁師を目指し訓練を受けている生徒達を見ていると、さあ、どっちが幸せになるのかなとふと思ってしまう。

 ある日本の友人が私に聞いた。「貧困の指標ってなんでしょうか?」「僕は、選択肢のないことだと思います。」そう彼は言った。コモロの職業の選択肢は確かに少ない。一握りの成功者が開拓した分野では二番煎じ、三番煎じはもはや通用しない。そう、他に選択肢が見つからず、皆喘いでいる。そして、勉学が出来ればと、子供に夢を託すお受検に必死な親達が増えてくる。

 子供達はというと、停電ばかりしている家庭では音楽も聴けないし、テレビゲームもできない。ましてや、それらを買う金がない。電車ごっこなんてない。電車を見たことが無い。ママゴトだって、小さい頃から毎日家事手伝いをやらされると、わざわざやらなくたっていい。映画館なんて無い。子供が携帯電話を持つ必要がない。そうあらゆる面でこの国では選択肢が少ないのである。

 ただ、子供達は、スポーツだけは大好きである。きょうも此処彼処で歓声が聞こえる。

 



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