カーステから流れているのは「みだれ髪」。
♪髪のみだれに手をやれば、紅い蹴出しが風に舞う♪
もしメロディが四分音符や八分音符といった音楽記号から出来ているとすれば、この歌にはメロディがない。美空ひばりの節回しに楽譜の痕跡が残っていない。
♪憎や、恋しや、塩屋の岬♪
これはもう美空ひばりという人の呻き声である。
♪投げて届かぬ想いの糸が、胸にからんで涙をしぼる♪
これは魂の泣き声である。元の楽譜にあったメロディは、今は生体リズムと化している。歌詞に書いてあった言葉は、今は窯変して心の声になっている。彼女は自分のリズムで自分の言葉を語っている。この歌は歌えない。黙って聴くしかない。
(亮)
|