カーステから流れているのは井上陽水の「少年時代」。
♪夏が過ぎ風あざみ、誰のあこがれにさまよう♪
この歌は文章に直したら意味をなしません。最初から最後まで全部そうです。単語の羅列に近い。ところが耳で聞くと、なつかしげなメロディに乗って心地よいイメージが広がります。それでよいのです。歌は文章ではなく文法には縛られない。万葉の昔から詩歌にはそういうところがあります。
それにしても不思議な歌です。いったい何を主題にしているのか歌詞からはわからない。しかし、広がったイメージを「少年時代」という曲名でもって一点に収斂させている。曲名がモノを言っているのです。古典詩歌にもよくあります、これはかくかくしかじかの歌ですよと冒頭に書き添えることが。「井上陽水、少年時代を思ひて歌ふ」みたいに。
(亮)
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