カーステから流れているのは「千の風になって」。秋川雅史のテノール独唱がそれこそ風のように吹き渡る。
♪私のお墓の前で泣かないでください、そこに私はいません、眠ってなんかいません♪
この歌には英語の原詩がある。歌ではない。詩である。12行詩の2行ずつが見事に韻を踏んでいる。原詩の朗読を耳で聞くと、英語が苦手な人でも、きっと言葉のリズムを感じ取るだろう。このリズムが詩の詩たるゆえんなのだが、日本語に翻訳すると、英語のリズムが失われる。詩が詩でなくなる。それなのに胸に迫るのは、新たなリズムを獲得したからである。言葉のリズムの代わりに楽曲のリズムを、すなわちメロディを。原詩は日本語に訳されただけでなく、その内容にふさわしいメロディを与えられた。これによって英語の詩は日本語の詩歌に生まれ変わった。それに何と言っても歌い手の声が歌の中身に合っている。
(亮)
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