カーステから流れているのは森山良子の「ふたつの手の思い出」。
♪ふたつの手を握りあい 肩よせて歩いた
すみれ色の夕暮も いつか消えていった♪
失った恋の歌です。二人の間に何があったのか、まったくわかりません。事情を探る手がかりさえない。でも、別れた理由なんかどうでもいいんです。ストーリーなんか要らない。独りになった若い女がここにいる。その舞台さえあれば、あとは森山良子が何とかしてくれる。彼女の声を聞くだけでよい。それほど美しい声なのです。透明な光のようです。声が美しいから、回想の恋も美しい。この曲は森山良子の声を引き立てるためにあるのではないか。ときにしみじみとつぶやくように、ときに高らかに歌い上げるように、高音も低音も自由自在。これは天賦の声。その証拠に、息子の森山直太郎もいい声をしている。
(亮)
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