カーステから流れているのはロバート・マクスウェル作曲の「引き潮」。演奏はフランク・チャックスフィールドである。この曲はこの演奏でなければならない。最初に聴いたのもこれであった。そして今一番聴きたい音楽も、このバージョンのこの曲である。現に繰り返しいつまでも聴いている。
かつて、この「引き潮」は、レースのカーテン越しに射し込むような光の中で聴いた。満ち足りた景色の中で聴いた。溢れようとする華やぎを抑え込む響きがあった。激しさは抑制され、心地よい静けさをもたらしてくれた。
いま聴くと、去りゆく幻影を追うような感じがする。そんな哀しみの旋律に気づくことなく、この曲をあのように聴けた時代が我々にはあったのだ。この曲はまちがいなく幸運の象徴だった。語り合えば懐かしいが、語る相手はもういない。
(亮)
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