カーステから流れているのは「カスバの女」。
♪ここは地の果てアルジェリア
どうせカスバの夜に咲く 酒場の女のうす情け♪
エト邦枝の歌を、ちあきなおみが歌っている。この人が歌うと凄味がある。黙って聞いていればよい。場所はアルジェリアの港町カスバ。酒場の女に男の客。女はかつてパリで踊り子をしていた。カスバで二人は惹かれ合う。しかしこの二人の境遇からして恋がかなうはずもない。女は酒場を離れるわけにはいかない。男もカスバに留まるわけにはいかない。
♪明日はチェニスかモロッコか
泣いて手をふるうしろ影 外人部隊の白い服♪
男は外人部隊の雇兵なのだ。そんな数奇な物語を、ちあきなおみが深い陰影を刻みながら浮かび上がらせる。この並外れた歌唱力。背筋にまで届く。それだけで十分だが、参考までに言えば、この歌が流れた昭和30年代はアルジェリア独立戦争の最中である。
(亮)
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