きれいな声がカーステから流れている。つぶやけば、少し喉をこする感じが魅惑的。声量を上げれば、一転して伸びやかに透き通る。染み入るような情感。うなるほど歌がうまい。微妙なところで日本語がネイティヴではないとわかる。これらすべての特徴が一人の歌手を指し示している。テレサ・テンである。曲は「恋人たちの神話」。
♪この世に私を授けてくれただけで
涙を連れ添う そんな生き方もある♪
感心するのは、ここの「連れ添う」の歌い方。並みの歌手なら「ツレソウ」と歌うところを、彼女は「ツレソー」と歌っている。これは由緒ある日本語なのだ。「飛び交う小鳥」は「トビコー小鳥」(高原列車は行く)。「眺めを何に喩うべき」は「眺めを何にタトーべき」(花)。古語で「添ふ」「交ふ」「喩ふ」など「―・ふ」と表記される言葉は、末尾の長音化が日本語の伝統なのである。外国人なのに日本古来の言語習慣を身につけているとは…
(亮)
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