カーステから流れているのは「思秋期」。岩崎宏美がしみじみと歌っている。
♪足音もなく行き過ぎた 季節をひとつ見送って
はらはら涙あふれる 私十八♪
高校を卒業したばかりの女の子が高校時代の青春を振り返る歌だが、このとき岩崎宏美もちょうど高校を卒業したばかりで、歌と同じ十八歳。作詞の阿久悠によれば、レコーディングの最中に彼女は泣いて歌えなくなり、日を替えて何度もやり直したという。この曲の青春が彼女の内面と溶け合ってしまったのだろう。
歌とその歌い手との結びつきには旬がある。十八歳の石川さゆりが若々しい勢いで演歌を歌い上げたように(津軽海峡冬景色)、まだあどけなさが残る十五歳の山口百恵があぶない歌をしっかり歌ったように(ひと夏の経験)、旬の輝きを得た歌がときおり現れる。岩崎宏美の思秋期もまた、その例に入る。得がたい一例である。
(亮)
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