カーステから流れているのは「風に吹かれて」。ノーベル賞を受賞したボブ・ディランの名曲だが、カーステのこの声はジョーン・バエズ。本当にきれいな声である。深みのある清流のよう。ときに柔らかく、ときに力強い。かつて「日本のジョーン・バエズ」という称号があった。そう言われることは日本の女流フォークシンガーにとって最高の誉れであった。ジョーン・バエズの歌唱力はボブ・ディランより上である。ただ歌唱力はノーベル賞の選考基準にはならない。「文学賞」だからメロディもおそらく度外視。では歌詞がよかったのか。しかし歌曲から歌手とメロディを取り去ったら意味がない。「今回のノーベル文学賞は一休み、余興でボブ・ディラン」という成り行きだったのかもしれない。ボブ・ディランほどのミュージシャンがその気配を感じないはずがない。彼は記念講演で本音を吐いている。「歌は文学とは違う。歌は歌われるべきものであり、読むものではない」と。
(亮)
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