カーステから流れているのは「若鷲の歌」。歌っているのは霧島昇。
♪若い血潮の予科練の 七つボタンは桜に錨
今日も飛ぶ飛ぶ 霞ヶ浦にゃ でっかい希望の雲が湧く♪
海軍飛行予科練習生は霞ヶ浦航空隊で飛行訓練を受けた。今の中学生から高校生ぐらいの年頃の少年たちである。戦闘機に乗るのが夢だった。その霞ヶ浦基地は、昭和二〇年六月、米軍の猛烈な空爆にさらされた。多くの練習生が戦死した。生き残った元予科練の人たちと霞ヶ浦で幾度か会ったことがある。その頃すでに老境に達していた彼らの中には、この歌を歌う人たちがいた。彼らとてあの戦争に夢や希望があったとは思っていない。しかしこの歌は、彼らの青春の歌なのだ。どんな時代にも青春はある。戦後は軍歌を忌避する向きもあるが、歌は歴史観では裁断できない。ましてや青春を消し去ることは誰にもできない。
(亮)
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