カーステから流れているのは「汽車」。明治の唱歌を安田祥子が歌っている。
♪今は山中 今は浜 今は鉄橋渡るぞと 思う間もなくトンネルの
闇を通って広野原♪
日本に初めて鉄道が開通したのは明治4年。それから40年ほどしてこの歌が生まれた。日本全国に鉄道が普及していった時代である。地方にも線路が敷かれた。木々が茂る山中、波寄せる海辺、川に架かる鉄橋、その先にまた山、トンネルをくぐったら広い野原と、めまぐるしく変わる景色の中を汽車が通り抜けて行く。日本人にとっては当たり前の風景だが、世界ではめずらしい。ロシアや中国の車窓は同じ景色が何日も続く。アメリカやドイツも似たようなもの。スイスはいつまでも山ばっかり。かの国々の人にこの歌を聞かせても「何のこっちゃ?」と思うであろう。この歌は日本特有の風土を如実に表している。同時に、徒歩ではわからない景色の移り変わりを目の当たりにした時代風景をも表している。
(亮)
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