チャトランの家

 第12話 お母さんのネコ好き

 お母さんがネコ大好き人間であることは誰も知りませんでした。だって、あの雨の日、子ネコを拾ったくーちゃんに「もとのところに捨ててきなさい」と厳しい口調で命令したのですから。
 ところが、子ネコの扱い方を知っているのはお母さんだけだとすぐにわかりました。お母さんは、ネコのトイレの作り方も、子ネコのしつけ方も、ミルクの飲ませ方も、ごはんの食べさせ方も、食べ物のうち何がよくて何がいけないかも、どうやって遊んだら子ネコがよろこぶかも、ネコのことは何もかも全部知っていました。お母さんのやり方をまねて、みんなは子ネコと一緒に暮らすすべを学んだのです。チャトランに対してお母さんが使う赤ちゃん言葉は、みんなに移ってしまいました。チャトランに話しかけるとき、みんなが赤ちゃん言葉になるのはそのためです。
 これほどネコ好きのお母さんが、なぜ最初の時、チャトランを飼うことに強硬に反対したのでしょう。それは悲しい思い出がお母さんにあるからだと、あとになってわかりました。十四年たってチャトランが死んだとき、お母さんは涙をいっぱい目にためて、うちひしがれたくーちゃんの肩を抱きしめていました。そのくーちゃんの姿こそ、むかしのお母さんの姿だったのです。お母さんは、少女であったそのときから、ネコはもう飼わないと心に決めていたのです。チャトランが来るまでは。

 (200610.18.)


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