チャトランの家

 第13話 おい、ネコ

 お父さんとお母さんはチャトランのことを「チャーラン」と呼びます。赤ちゃん言葉では、「チャトラン」は「チャーラン」になるのです。おねえちゃんとくーちゃんは「チャーちゃん」と呼びます。「チャトランちゃん」という意味です。ところが、一人だけ、チャトランに対してネコなで声も赤ちゃん言葉も使わない人がいました。末っ子のしゅんくんです。しゅんくんは「おい、ネコ」とチャトランのことを呼びました。
 チャトランが来たとき、チャトランはとても小さかったので、おうちの人とチャトランの関係は自然に決まりました。お父さんとお母さんは、チャトランにとってもお父さんとお母さんです。おねえちゃんはチャトランの頼もしい保護者、まるで小さなお母さんみたいでした。くーちゃんはチャトランの親分、なかよしの友だち、一心同体の姉妹のようでもありました。このように、おうちの中の順番は、はっきりしていました。チャトランよりもえらい人ばかりでした。チャトランもそのことをよくわかっていました。でも、しゅんくんとチャトランは、どっちが上でどっちが下かはっきりしませんでした。だからしゅんくんとチャトランは、ときどき緊張状態におちいりました。
 おうちのテーブルには椅子が五つあったのですが、チャトランも椅子を買ってもらい、椅子は六つになりました。誰がどこに座るか決まっています。特にチャトランの椅子はひとまわり小さいので、誰の目にもわかります。おうちのみんながテーブルを囲むとき、チャトランもこの椅子にちょこんと乗って団らんに参加しました。みんなと一緒におやつを食べるときもありました。この椅子はちょっと腰かけるときに便利なので、お父さんやおねえちゃんもたまに座っていました。そんなとき、チャトランは黙っています。ところが、しゅんくんがこの椅子に座ると、チャトランは怒るのです。「ニャー、ニャー、ニャー」と椅子の下でしゅんくんに抗議します。「あ、ごめん」という顔で椅子をチャトランに明け渡すしゅんくんの姿からは、しゅんくんとチャトランの順番はチャトランの方に分があるようにも見えました。その劣勢を挽回するため、しゅんくんは「おい、ネコ」とチャトランを呼びつけたのかもしれません。でも、チャトランは知らん顔で聞き流していました。

 (200611.08.)


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