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第19話 ミミちゃんの死
白ウサギのミミちゃんがチャトランを従えておうちの庭に君臨するようになってから三年が過ぎました。ミミちゃんがおうちに来たのはその前で、産まれたたのはそのずっと前です。でも、みんなはミミちゃんがいつまでも元気にこのおうちにいるものとばかり思っていました。
その年の五月三日は、おねえちゃんは中学校のお友だちと泊まりがけの遊びに行き、ほかのみんなはそろってお祭り見物にでかけました。夕方、お祭りから帰ってくると、くーちゃんとしゅんくんが半泣きになってお父さんとお母さんのところに駆けてきました。ミミちゃんの様子が変だというのです。
ミミちゃんはいつもと同じ姿勢で眠っていました。気持ちよさそうに目を閉じていました。でも、それは、目覚めることのない眠りだったのです。ミミちゃんを抱き上げたお父さんが、ミミちゃんが死んでいるとみんなに告げました。
きのうもおとといも庭で遊んでいたミミちゃんです。その命が今日消えるとは誰も想像していませんでした。しゅんくんとくーちゃんは泣きました。お母さんも泣きました。お父さんは涙をこらえ、白いタオルでミミちゃんの体をくるんであげました。お母さんはしゃがみこみ、ミミちゃんの白い体をなでました。生きているときと同じふさふさした白い体でした。
ミミちゃんが死んだ日、ミミちゃんともっとも関係が深かったおねえちゃんとチャトランはおうちにいませんでした。ミミちゃんは誰もいないおうちで静かに最後の眠りにつき、しかも一番かなしむにちがいない者が不在のときを見はからったかのように、静かに息を引き取ったのです。それはミミちゃんがもつ野生の矜持だったのかもしれません。あるいは人間の世界で生きたミミちゃんの、まるで人間のような心くばりだったのでしょうか。
その夜は、とても静かでした。ダイコンの葉っぱやニンジンを催促する音が聞こえませんでした。大切な命が消えた静けさでした。
その年の夏は、庭にたくさんの花が咲きました。ミミちゃんがいるときは、アサガオを植えても、ヒマワリを植えても、葉がでるとすぐミミちゃんが食べてしまうので、おうちの庭には花があまりなかったのです。夏になって咲きほこる花を見て、お父さんもお母さんもさびしそうでした。
ミミちゃんは、大好きだった庭の片隅にお墓をつくってもらいました。白ウサギの耳太郎は、そこに眠っています。おうちの人が出入りする騒がしい音や、チャトランの忍び足を、今も飄々と聞き流しています。
(2007.6.10.)
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