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第36話 出発の日
チャトランが来てから十年が過ぎ、くーちゃんがおうちを出ていくことになりました。おねえちゃんはすでにおうちにいませんでした。おねえちゃんを早々と手放したことを悔やんでいたお父さんは、くーちゃんまで遠くへ行ってしまうことに大きな痛手に受けていました。
くーちゃんが出発する日、お父さんはお仕事を休んで朝からボーとしていました。お父さんの中で、思い出がくるくるまわっていました。ずぶぬれの子ネコを拾ってきた雨の日のことも、きのうのことのように思い出されました。そのチャトランは、今も目の前で、くーちゃんと遊んでいます。でも、この遊びが終わったら、くーちゃんは夜行バスに乗って遠くへ行ってしまうのです。
くーちゃんが出発してしまい、しょげかえっているお父さんにお母さんが言いました。
「娘が晴れて大学に行ったというのに、何ですか、その顔は」
そうです。くーちゃんは遠くの大学に行ったのです。おねえちゃんも遠くの大学に行ってしまっていました。お母さんは、お父さんとちがって、元気そのものでした。娘たちのアパートを回って旅をするのだと、さっそく計画づくりにはげんでいます。そんなお母さんに励まされたお父さんは、やっと笑顔をつくりました。でも、やっぱりどこかさびしそうでした。
チャトランも、さっきまでくーちゃんと遊んでいた場所で、さびしそうにポツンとすわっていました。
(2009.1.11.)
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