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バランスが大事!


 第7話 影武者物語 その3
    〜人類は兄弟とする影武者が現れる〜

 「地球上分子の存在だけでなく、人間関係もバランスの上で成り立っている」と考えるが、違ったら、ごめんなさい。以下はバランスを保った実話であります。

 何回か諦めかかったが、ついに船の引渡し日を迎える事が出来た。
 残金を送金した銀行書類のコピーを造船所に渡し、引渡しの日程調整に入った。
 ところが、数日過ぎても入金確認がとれない、そうして一週間が経過した。送金は日本の銀行よりドイツの大手銀行“D”の造船所口座宛であった、電子送金故に外為取引契約がある事も確認していたので、通常は翌日入金する。造船所はドイツ“I”社製のトラック数十台と設備の購入代金で、既に引き取り運転手達が現地で待機していた。
 調査依頼した日本の銀行は送金実行したことを繰り返し確認するも、造船所口座には入金されなかった。造船所社長は文句一つ言わずに毎日私と会議で顔を合わしていた。私にはこれが辛かった、腹が決まった。嫌がる日本の銀行に送金および通信エビデンスを強烈に要請した、結果、分かったことは送金先がドイツの大手“C”銀行になっていた、依頼した“D”銀行ではなかったのだ。そのエビデンスについて日本の銀行は電話で照会して送金を確認していると頑張った。最後の手段として弁護士に依頼して「詐欺罪に係る警告書」を発行して両銀行へテレックスを送信した。翌日ドイツ“C”銀行より返事がきた、アンビリーバブルな内容であった。“C”銀行は送金を受け取ったが、主力銀行として“I”自動車口座に入金して、その旨を日本の銀行にも説明済みと書いてあった。
 後で知ったが“I”自動車は当時債務超過にあった模様。
 結果責任として、“I”自動車は適時に代金を受け取っていたが、日本の銀行は依頼した通りの口座に送金しておらず、且つその事実を隠したことにより、両者に損害弁償請求を求めて訴訟起こす手続きを開始したが、後日仲裁を受け入れる事となった。

 さあ、船用品を積め込めば、輸出手続をしていよいよ出港だ、日程の打ち合わせで連日、本船に乗船していた。ある日、船長室で打ち合わせの最中に船長が呼ばれて外に出た、戻ると画面蒼白で緊張した顔で私に報告をはじめた。今、窃盗罪現行犯で乗組員5名と造船所資材部関係者が内務省に逮捕されたと言うのだ。半信半疑で詳しく聞くと、警察は数ヶ月前から監視しており、造船所から非鉄金属を分割して本船に積み込終わるのを待っていた模様で、船長立会いの元で隠し部屋の鍵をあけさせたのである。
 私は愕然と来た、苦労が絶えなかった事は全員が見ている通りだが、私は無理してまで相当高い手当てを支払ってきたので(相場の数倍)裏切られた気がした。
 内務省責任者が会ってくれないので、しかたがなく造船所社長に頼むことにした。社長が言うには、運が悪かったのだ。造船所内で盗難事件が絶えないので数箇所の出入ゲートの警備係を事前予告せずに交代させたら、大勢の人が窃盗犯で捕まり、内務省副大臣が自ら取調べをしていて、石鹸1個の持ち出しも許さない、厳しい事で有名な人物らしいかった。本船出港後の日程は既に決まっており余裕などはなかったので、私は社長に頼んだ、逮捕者を残し本船は出港させたいので協力してほしかった。事件が解決しないと予定も組めないので、私はしかたがなく船長室にいた、あれから数日後のある日、私が私服の連中に外に呼ばれた、緊張したが心は冷静であった、
 「貴方がプロレタリア出身である点を配慮し、事件扱いにしない事に決定しました」と聞こえたが何の事かさっぱり理解できなかった。分からなければ親友に訊け、社長に相談したら、丁寧に説明してくれた。要は無罪放免であった、嬉しさはなかったが、心は穏やかで、これでバランスがとれたと思った。

 続く
 


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