ギリシャ随想シリーズ (1) 神々の形容詞

 ギリシャといえば、何といっても、まずは神話です。

 ギリシャの神々には、それぞれの枕詞というか、形容語があるのをご存じですか。

 オリュンポスの最高神ゼウスは「稲妻を投げるゼウス」と形容されます。
 古代人にとって稲妻は恐怖の象徴。ゼウスは怖い神さまだったのですね。
 「銀の矢を射る神」と呼ばれたのがアポロンです。弓矢をもった精悍な若者の姿を
 したアポロンが目に浮かびます。アフロディテの場合は、「美と愛の女神」などと
 理屈っぽくいわず、古代ギリシャ人は「微笑みを愛でるアフロディテ」と呼んだ。
 このほか、海神ポセイドン、軍神アレス、冥王ハデス、女神アテナなど、主だった
 神々はみな、イメージ豊かな固有の形容語をもっているのです。

 古代ギリシャの詩人は、神々だけでなく、人間の形容語も発明しました。
 彼らは単に「人間」とは言わず、「死すべき人間」と呼びました。
 人間を特徴づけるもの、それは死ぬことなのです。これを裏返せば、神は死なない。
 神々と人々が混然となったギリシャ神話の世界で、神と人間を決定的に分けたのは、
 死ぬか死なないかの一点であったのです。

 (2004年2月17日)

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