ギリシャ随想シリーズ (18)パルテノン神殿

 アクロポリスにそびえ立つパルテノン神殿は、
 古代ギリシア美術・建築技術の粋を極めた最高傑作であり、
 至高の芸術品である。

 ペルシア戦争の戦勝を記念して当時最高の彫刻家と讃えられた
 フェイディアスの指揮の下、10年の歳月をかけて造られ、前438年に完成した。
 パルテノンとは「処女の部屋」という意味である。
 これはアテネの守護神アテナが「アテナ・パルテノス(処女神アテナ)」と
 呼ばれていたことからきている。
 東西8本、南北17本、計46本の大理石造り、
 高さ18.5mの円柱が、幅30.88m、奥行き69.50mの基壇を囲む。
 円柱は重厚なドーリス式で、フリーズ(帯状装飾)には、
 優雅なイオニア式の浮彫が施されている。
 壁面は外部も内部も壮麗な浮彫彫刻で埋め尽くされていた。
 内部には12mもあったと言われる黄金と象牙に覆われた
 巨大なアテナ像(現存せず)が安置され、夥しい量の宝物もしまわれていたという。

 この神殿については、芸術的価値もさることながら、特筆すべきは
 「美」を最大限に追求するべく緻密に計算され尽くした驚くべき建築の知識である。
 例えば、一見したところ、神殿は直線だけで出来ているように見えるが、
 実は直線は一つも使われていない。
 基壇も円柱も完全な水平や垂直ではなく、微妙に曲線を描いているのである。
 基壇は中央部でわずかに盛り上がり、円柱も軸が内側に傾き、
 中央部がわずかに膨らんでいる(エンタシス)。
 これは見る人の目に錯覚を起こさせるための工夫であり、
 こうすることで本当の直線で構成するよりも美しい直線に見えるようになるのである。
 また、重圧感を和らげ、軽快さを演出する効果もあった。
 もう一つは「黄金分割」の採用である。黄金分割とは、
 「ある線を二分した時、小さい部分と大きい部分との比が、
 大きい部分と全体との比に等しくなるような分割」
 のことであり、その比を黄金比という。
 具体的には(√5−1):2、すなわちおよそ1:1.618という数字である。
 そして、この比率を使えば、視覚的に最も調和が取れ、
 安定した美観を見る人に与えるとされているのである。
 パルテノン神殿では、正面からと横からの建物の縦と横の長さのバランスに
 黄金比が使われている。
 これは、パルテノン神殿が意図的に斜めから見られるように造られていて、
 斜めの角度から見たとき神殿の建築美が最も効果をあげる
 という計算に基づいているのである。

 要するに、パルテノン神殿は、「最高に美しく見える」ように造られたということである。
 このような美を追求する技術は、
 その後西欧世界の建築や美術に多大な影響を与えた。
 後世の建築家や美術家たちはこのパルテノン神殿を美の理想と仰ぎ、手本とした。
 まさにパルテノン神殿は西洋美術の源なのだ。

 (2004.8.3)

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