ギリシャ随想シリーズ (3) 生きている遺跡

 古代ギリシャの芸術や哲学、政治思想は紀元前5〜7世紀に現れ、ギリシャ
 神話に至っては紀元前9世紀にはすでに成立していたと言われています。
 このとき日本は縄文時代ですが、世界には別の文明もありました。エジプトにも
 ペルシアにもあったし、中国やスキタイも独自の文明圏を生み出していました。
 しかし、それらほとんどの文明は、現在、古文書や遺跡として残っているだけです。
 ところがギリシャ文明は、ローマを経て西欧に受け継がれました。古代ギリシャの
 諸国家は滅んで久しく、他の文明同様、そこには遺跡があるにすぎないのですが、
 生きた継承者がいることがギリシャ精神を現代に生かし、廃墟をも生かしているの
 です。

 ひるがえってわが日本では、時代はかなり下りますが、それでも大昔の7世紀に
 建てられた寺院で、今も毎朝、僧侶が庭を掃いている光景に出くわします。千年
 以上昔の建物なら「遺跡」か「廃墟」になるのが普通です。ところが日本はそうでは
 ない。今も同じところに生身の継承者がいるのですから。これは世界史的に見て、
 まことに希有な出来事ではないでしょうか。

 (2004年3月18日)

ギリシャ随想シリーズ目次