ギリシャ随想シリーズ (8)民主政治

 現代民主政治の源流とされる古代ギリシャの民主政は、
 ギリシャ文明の最も偉大な遺産のひとつである。
 しかし、近現代の民主主義者たちが尊敬と憧憬を込めて想像するイメージと
 実際の古代ギリシャの民主政とは、おそらく少々隔たりがあるのでは
 ないだろうか。

 古代ギリシャの民主政は直接民主主義であったが、
 最も驚嘆すべき点は、徹底した平等主義が貫かれていたことである。
 18歳以上の男性市民は貧富の差なく全て参政権を持ち、
 国家の方針を決定する民会、国政を担う評議会、裁判を行なう民衆法廷に
 出席することができた。
 中でも、評議会(行政府)を運営する評議委員、民衆法廷(司法府)を
 構成する陪審員は、なんと市民の中から「抽籤」で選ばれていた。
 クジで当たれば文字通り「誰でも」国家の役人になることができ、
 直接国政に携わることができたのである。
 見事な平等主義ではないか。
 そして汚職や腐敗を防ぐため、短ければ一年、長くても二年で交代した
 のである。

 民主主義のこの姿は、理念としては徹底している。
 しかし、残念ながら、これでは政治が円滑に進むわけがない。
 個人の能力や適性などは何も考慮されない抽籤制度、極端に短い任期、
 これでは行政や司法のプロなど育成されるわけもない。
 古代ギリシャの民主政は素人の寄せ集めによって成り立っていたと
 言うこともできる。
 長続きしなかったのも道理である。
 しかし、数千年の時を超え、現代にまで受け継がれる民主主義という精神が、
 紛れもなく古代ギリシャの誇るべき遺産であることに変わりはない。

 (2004.5.15)

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