『寝過ごした!』
(第44話)
広瀬裕敏
乗り物に乗るとすぐ眠たくなる。
中学に入って深夜放送を聴くようになると、慢性的睡眠不足である。
横浜駅から学校のある大船までの車内で、運よく座れたりするともういけない。
一度大船で飛び起きて降りたのはいいが、寝ぼけていて学生カバンを網棚に置き忘れた。
その電車の終点を確認し、教科書もノートもないまま授業を受けたあと、小田原まで取りに行った。学生が学生カバンを忘れて、と駅員に皮肉を言われた。
学校帰りの横浜までの道程は、友人と騒いでいるから心配は無かった。
問題はその後の自宅までのバスである。二駅三駅くらいの寝過ごしは、驚きもせず歩いて帰った。
やはり停留所で起きて寝過ごしたと思い飛び降りたら、まだ自宅の停留所の前であった。そして同じように学生カバンをバスの中に置き忘れていた。
やもえずダッシュで次の駅まで走り、同じバスに間に合って乗り込み、カバンのあった同じ席に座り、またすぐ寝た。
鎌倉街道で信号が多いせいもあったが、まだ体力もあった。
大学に入って東京で飲むようになると、東横線は安心だった。
終電に近い電車で熟睡しても、終点の桜木町で駅員が起こしてくれるのである。
桜木町から20分以上かけて家に着くころには酔いもさめた。
会社に入って、東京駅から東海道線を使って帰るようになって、一番最長で熱海まで寝過ごした。
上り電車もすでに無く、駅員に紹介してもらって木賃宿に泊まった。
京浜急行に乗って横須賀まで寝過ごしたこともある。
そのときも終電はすでに無く、金曜ということもあって、横須賀にいるということが嬉しくなって、「ドブ板横丁」で飲み明かそうと思った。
いかにも横須賀といったショットバーでウイスキーを3杯まで飲み、ついに眠たくなって断念し、タクシーに乗った。
東京から自宅までよりはるかに近い距離だった。
京浜東北線で東京から帰って、関内を寝過ごしても、根岸、磯子あたりまでなら全然心配ない。
根岸線は本牧岬を大きく回るので、自宅までタクシーでも歩いてもたいした距離ではないのである。
特に根岸駅から見上げる、元競馬場のある根岸台の住宅の灯りは、いかにも横浜らしくてほっとする。
「寝過ごす」ことでちょっとした冒険の旅を味わうことができる。
こういう考えだから頻繁に寝過ごすのだろう。
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