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さくら野貿易
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ラーゲリの歌声


 第9話 チューインガム

 そのころソ連では、チューイングガムが手に入りにくかった。ロシアの子はクチャクチャと噛むのがカッコいいと思っていたみたい。そんな事情を知らずに持っていたガムを噛んでいたら、友だちがこぞって顔色を変え、私にガムをくれと懇願し、私の前に行列を作った。持っていた物を渡すと嬉しそうに噛み始めた。その日一日中噛んだ後、そのガムを捨てずにとっておいて次の日もまたクチャクチャやっていた。今まで「言葉もわからない日本人なんて興味ないわ!」という風情だった子が、手のひらを返したように私に特別親切にしてくれるようになった。それからガムを噛むのが嫌いになった。


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