現代徒然草(5)

 ある不安

 以前、とうふが好きだった。特に冷や奴が好きだった。冷や奴があれば、
いくらでもご飯を食べることができた。
 今、そんな感じはない。
 大豆は畑で薬品をかけられ、工場で添加物を加えられる。おいしいはず
がない。と考えて問題は解決していた。ある日、背筋に戦慄が走った。
 私の味覚にまちがいが起こっているのではないか。とうふは相変わらず
おいしいのではないか。
 いたわられることの無かった私の舌。私の味覚。私の生命。
 眼鏡は100%調節することは出来ない。どこかで妥協する。私の見て
いるリンゴの大きさは、別の人の見ているリンゴの大きさと同じになって
いるのだろうか。
 カラーテレビの口紅の赤は、どの受像器でも同じ赤として写っているの
だろうか。各家庭で異なったものを見て、同じものを見たと信じている。
そんなことはまったく無いと言えるのか。
 認識を一致させるということについて根本的な不安がある。

 2003.4.05.
 武兵衛

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