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上床 和則



 第1話 チュニジア通信 その1

 私のチュニジアとの出会いは、約10年前に同国の水産関連の調査を始めたことにある。漁業のみならず、水産資源評価と管理、水産教育などの分野の調査と技術協力に携わってきた。
 チュニジア沿岸の特徴として大きく二つに分けられる。地中海を隔ててヨーロッパを対岸に見る北部、ここは水深が急深し、所謂磯物が多く漁獲される。一方、リビア国境に近い南部のガベス湾は砂又は泥質の遠浅で、小エビが多く漁獲される。沖合では、青物の鰯・鰺・鯖が群れを形成し、それを狙った地中海マグロが回遊してくる。晩春の築地市場にチュニジア産マグロが並べられているのを目にすると、遠く離れたチュニジアが身近に感じられるのは私だけであろうか。
 チュニジアで漁獲される水産物の中で、「これは日本では味わえない」と勝手に思いこんでいるものがある。それがイワシ、ヒメジそして小型のメルルーサである。その他のチュニジア産水産物の味が劣っているわけではないのだが、この3種は日本にはない独特の味覚を覚える。ある時のことである。チュニジアにも高級なシーフードレストランが数多くあり、意気揚々とこの3種をメイン料理として注文した。ところが店員が「それらの魚は家庭で食べるものであり、このレストランではメインとして扱っていない。」と気取って、全然取り合ってくれない。日本では、江戸の時代はマグロといえば赤身で、大トロなんて下衆の食べ物だったが時代とともに変化した。チュニジアだって時代に変化があったって不思議ではない。暫く粘ったがだめで、渋々スズキに注文変更したことがある。それ以来、できる限り地方の漁港近くで、魚が新鮮かつ炭火で焼いてくれるような大衆食堂を探すことにしている。スズキについては、刺身に洗い、そして焼いてもよしであるが、最近は養殖物が出回っているので、天然物を見分けることが肝要かと思われる。

         


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