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上床 和則



第17話 コモロ通信 その8

 小職の勤務する国立水産学校では、中学を卒業した若者を迎えて2年間訓練する。この他に、現役の漁師さんたちを再教育して、少しでも孫やひ孫の世代にも継続した漁業ができるよう改善しようと計画している。
 この国の文化・慣習に従いながら、水産教育・訓練をどのように改革したらよいのか、手っ取り早く本人たちを集めて希望や意見を聞くことにした。業務上のこと故、詳しく話せないが、様々な意見が出てくる。
 ただ、この国の若者たちの目はやはりITなどトレンディな方向に向いていることを実感する。若者の夢は、汗を流すことなく、きれいな服を着て、事務所でパソコンに向き合って金を儲けることにあるようだ。
 その話はさておいて、一般的には教育費を払えない家庭が多く、優 秀な若者たちも満足な教育を受けることなく海外に出稼ぎに行ったりする。
 そう、この国の経済を支えるのは出稼ぎ労働者からの送金で、その金が国内を循環し、物の輸入代金としてまた海外に消えていく。このため、銀行送金システムは非常に発達しており、我々のプロジェクト口座も思ったよりスムーズに開設できた。試しに、東京本社に大きくもなく小さくもない金額の送金を依頼したら、2日で口座に届いた。
 このような国の現状はあるものの、コモロが豊かな海洋資源を持っ ていることは間違いない。というより、他に育つ産業が見あたらないと言ったほうが適切かも知れない。
 過度な期待を持たせないよう配慮しつつ、漁師自らができる範囲の ことを目指して、みんながハッピーになれるようなスタンスで業務に取り組もうとしているが前途多難である。
 仕事を終えた午後や休日にのんびりと海を見ている。
 すると小中校生たちが遊びながら自分たちの力で舟を操り、舟の周りで泳ぎ、舟の上で漁を始める姿を見る。なんだかんだと言いながら、ちゃんと次世代は育っている。
 あれもこれも何もかも、危ないからやってはいけないという我が国 の子育てとは違って、子供たち自身が海の優しさと怖さに向き合っている。親はそれを見守っていればいい。
 この国も捨てたものではないと思うこの頃である。

   

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