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第19話 コモロ通信 その10

 ここアンジュアン島は南緯12度くらいに位置する。午後8時頃、夜空を見上げると、南の空には南極を指し示す南十字星が見えている。そこから東に目をやるとサソリ座が、しなる胴体で鮮やかな曲線を描く。一方北の空に目をやると、低い位置に北斗七星が横たわる。
 現在の午後8時という時刻帯は月明かりがあり、星の愛でるには向いていない。ただ、最近は虫の音も聞こえ、秋の気配が漂い、どこか物悲しげでもある。
 ここコモロと日本とは緯度でいうと45度くらいの差がある。したがって、皆さんが見ている夜空のうち、北極星から45度の範囲は、コモロでは見えない。
 一方、日本の経度は東経135度として、コモロは東経45度位なので90度の違いである。これは地球360度の4分の1に当たる。
 日本が夕刻の6時であれば、ここコモロは同じ日の正午である。皆さんが深夜の2時に夜空を見上げている頃、私が見ている夜空の4 分の3くらいは皆さんが6時間前に見たものである。
 4月中旬にコモロに赴任したときは、夕方まだオリオン座が南西の空に見えた。ギリシャ神話では、オリオンはサソリに殺されたとあるが、南の空でサソリがオリオンにねらいを定めているかのように思えたものである。
 さて、ここアンジュアン島では豊かなジャングルに恵まれ土地に保水力がある。また、豊かな渓谷がきざまれ滝があり、水力でタービンを回すことができるが発電量は限られている。したがって、大型ディーゼル発電機を稼働して電力を島内に供給するのが主力である。しかし、発電機の故障や、燃料不足に陥り停電が多発するのが実状である。
 ホテルにも自家発電装置はあるのだが、共通する悩みである燃料不足の場合には自家発電もままならない。すると、夜12時頃から朝方までは停電という事態となる。こんな日が続くと、グチを言ってばかりではつまらないので楽しみ方を探すしかない。
 朝方の4時頃に起き出して、満天の星空を眺めるのである。
 全島停電中なので、陸上の照明は全くなく、月明かりもなく、これに雲もない幸運に恵まれれば、夜空の大スペクタクルを邪魔する物は島影しかない。それこそ星がこぼれ落ちてくる。
 春に見ることができる一等星はというとその数は少なかったように思う。代表格は乙女座のスピカであろうか。この星、二つで一つをなす連星と言われているが、どことなく女性を思わせる優雅な輝きをしている。
 ところで皆さん、天体観測の場合には、無防備な自身に虫除けスプレーをお忘れなく。

   

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