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上床 和則



第24話 コモロ通信 その15
 
 昔の日本家屋は、夏の夜、南側の日中は日当たりの良い縁側のある 窓と、北の窓を開け放し、部屋の間仕切りの障子も開放されていた。風鈴をチリンと鳴らしてそよ風が吹き抜け、ブタの陶器に吊された蚊取り線香から淡く立ち上る煙がたなびいていた。
 緑色の4畳半はスッポリと収まるような大きな蚊帳の裾をはたいて、さっと蚊帳の中の寝所に入る。蚊帳の中には、現実とは別の世界があるのではないかとワクワクしたものだった。ただ、風が通らないと蚊帳の中は暑かった記憶がある。
 さて、ここコモロではマラリアがあるだの、デング熱があるだの、注意喚起がやかましい。しかし、蚊を媒体として原虫が体内に入り込むとやっかいである。せっかくこの年まできれいな身体で過ごしてきたのだから、そのままでいたい。
 アンジュアン島の宿は、3階にあり、ほぼ密閉された部屋に殺虫剤を噴霧すれば、あとは蚊帳なしでも眠ることができる。
 一方コモロの首都モロニのホテルは一般的に宿泊料が高い。したがって、月に1~2度程度出張で行くと、少々安めのホテルに泊まる。ただ、部屋のドア・窓・空調の配管用の穴など至る所に蚊の進入するほころびが目に付く。
 ホテル経営者もそこは承知で、蚊帳がちゃんと用意してある。しかしこの蚊帳、写真のようにシングルベッドに吊すギリギリのサイズである。吊し方が不完全だったり、寝相が悪いと蚊帳の網目に肌が直接当たり、そこを蚊が狙ってくる。コモロで入手できる中国製の蚊取り線香を焚きながら、日本の大き な蚊帳を懐かしむこの頃である。

  




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