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第25話 コモロ通信 その16
 
 皆さんから多くのお便りを頂いた。
「そこに古城はあるのか?」と。

 島崎藤村「千曲川のスケッチ」より:

 小諸(こもろ)なる古城のほとり
 雲白く遊子(ゆうし)悲しむ
 緑なすはこべは萌えず
 若草も籍(し)くによしなし
 しろがねの衾(ふすま)の岡辺
 日に溶けて淡雪流る

 一応、ここも「こもろ」という呼称である。その「こもろ」の名の響きに親しみある方もいらっしゃるであろう。
 コモロ連合のアンジュアン島にあるMoutsamudu(ムツァムドゥ)にも古城はある。1782年から1790年にかけて故、フランスが統治する前に、アラブ人によって城塞が築かれたと推測する。その後様々な歴史をたどったので、どの程度初期のままの姿をとどめているのかわからない。
 きっと様々な占領者によって、それこそ様々な改築がなされたと思う。最初の写真では大砲が数カ所から顔をのぞかせている。
 続く写真の深い城壁の谷間を抜けていく階段道で、日本の城にも共 通した趣があり、武人(もののふ)が行き交った様を想像する。ただ、ここには観光地的な土産物屋などはなく、のどかな夕暮れを満喫できる。
 古城から街を見下ろすと、残念ながら千曲川を望むことはできず、 街がゆるやかに港の方へと続いていく。ここからの風景を藤村のように詩にしようとしたが、無理だった。

  





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