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第29話 コモロ通信 その20

志賀直哉の小説「城之崎にて」は兵庫県の城崎町の温泉街が舞台である。静養する直哉が投じた小石がイモリに当たって死に、生命のはかなさを知るような内容だったと記憶する。
 イモリは「井(井戸)を守る」からイモリ。ヤモリは「家を守る」からヤモリと、先人達から教わった。因みにイモリは皮膚呼吸する両生類、ヤモリは肺呼吸する爬虫類であるから同類ではない。イモリについてはよく観察したことがないので生態については省くが、小説に出てくるように水辺に生息している。
 コモロには「家を守る」ヤモリが非常に多い。さすがにホテルの部屋にはやってこないが、ホテルの通路やレストランの壁などにも非常に多く生息している。害虫を食べてくれるので、家主は追い払ったりはしない。
 昆虫の中では比較的動きの遅い小さな蛾が狙いやすいようだ。結構ヤモリの動きは俊敏だ。写真のように爪がガッチリと壁面をとらえている。
 このヤモリと蛾の両者の攻防が見ていて実に面白い。壁を這うように進路を変えて羽ばたく蛾を、ひたすら追いまくるヤモリ。ただ、蛾に壁を離れて飛び立たれてしまうと万事休すで、ヤモリは 恨めしそうな眼(まなこ)で空(くう)を見ている。
 目と言えば、ヤモリにはまぶたがない。乾燥を防ぐためにたまに眼球を舌なめずりする。また、「キュッキュッキュッ」と鳴くのである。
縄張り主張なのか、求愛なのか。いずれにせよ、小石を投げるようなまねはしないでおこう。
 
  





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