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上床 和則

 


第33話 コモロ通信 その24

 ところが変われば魚類も変わり、なかなか名前を特定するのは難しい。魚はおいしければいい、という発想故、なかなか魚類学的見地に立てない。
 さて、ここコモロでは、海の干満差が2m以上ある。これを利用して浅い海域で追い込み刺網漁が行われる。魚が刺さるので「刺し網」だが、満潮時などに網を魚が集まりやすい場所に張っておく。
 干潮に向かって潮が引く頃、数人で離れた場所から網に向かって音を立てながら泳いだり、歩いたり、舟を漕いだりして移動していく。音に驚いた魚は、音源から遠い方に逃げようとし、刺網というトラップ(罠)に刺さってしまう。浅い海域は、小魚は別にして同一魚種が群れをなして泳ぐことは少ない。したがって、この漁ではやたら雑多な種類と大きさがまちまちの魚が捕れる。
 ここコモロでは、ターゲット魚種が決まった漁法が多いので、カツオならカツオばかりが市場にずらっと並ぶことが多い。そして何と言ってもここは浮魚の流通が主体である。
 ところが、この追い込み漁が行われて、小売市場の一角にそれこそ どさっと置かれると、この一角だけ非常に華やかに見える。赤・青・黄色と天然色が豊かで、やはり底物はいい。そして、何より新鮮だ。並べられた魚は、それこそ30種類くらいはあり、熱帯魚も混ざっている。
 ただ、日本人になじみのあるのは、全体でほんの数種類である。小売りの形態はだいたいがキロ売りなので、1尾いくらという訳にはいかない。
 写真は、大きいのがフエダイの仲間で、小さいのがニザダイ(仁座鯛)の仲間かなと思う。まず、フエダイを頼んで天秤ばかりの上に乗せたが1キロに満たない。この場合、小売りのおっちゃんは抱き合わせで販売する戦略を採る。
 私は、1キロに満たない重量分を、適当な大きさのヒメジで埋めようとしたが、おっちゃんの戦略上、ヒメジは主力商品である。したがって、抱き合わせ用の商品ではない。すったもんだして、おっちゃんが天秤ばかりの皿の上に乗せたの は、このニザダイ(?)である。
 皆さん、見た目は、熱帯魚に思われるであろう。私もはてどうしたものか逡巡したが、魚の肌を触った感触がある魚類に似ているので、これはひょっとしてと、おっちゃんの戦略に乗ることにした。
 ホテルに持ち帰って、早速さばいた。この小型魚も3枚におろしたが、簡単に皮を剥ぐことができる。そう、カワハギの感触に似ていたのだ。それで、貴重な日本から持参した醤油とわさびで食べてみた。
 軍配は、フエダイではなく、ニザダイ(?)にあがった。何のにおいもクセもなく非常に甘みがあっておいしい。これこそ正に目からウロコであった。熱帯魚なんて思ったら大間違いである。
 因みに、魚代はトータル約3ユーロ、頭は吸い物にして頂いた。

 



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