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上床 和則



第4話 チュニジア通信 その4

 前回紹介したザラットの街は、北緯33度45分くらいに位置する。日本に当てはめると九州の福岡くらいの緯度であろうか。
 2007年6月末にアフリカ大陸の高気圧の勢力が強まり、サハラ砂漠で熱せられた空気が強烈な熱気団となり、ザラットにまで流れてきた。「シロッコ」と呼ばれる南風である。このシロッコが数日間続く。日中の外気温度は摂氏45度くらいまで上がり、身体は絶えず発汗し、気化熱を奪って体温を下げる作用を働かせるので終始汗だくとなる。脱水症を避けるために水分補給が欠かせず、水のペットボトルを肌身離さず持ち歩くこととなるが、1リットルはやはり重い。さらに塩分が汗に混じって失われ、体温の調整機能までもが失われて上昇してしまうと日射病に陥ってしまうので要注意だ。最大の防御は日陰などで定期的に休むことであるが、陰が作れない場所ではどうしようもない。チュニジア人の忠告を基に、麦ワラ帽子を事前に買っておいたが、効果抜群であった。麦ワラ帽子はもちろん手製である。昔は地元で作っていたであろうが、最近は安価な中国製に押されている。店に並ぶ麦ワラ帽子は、ツバの大きさと形と反り具合、てっぺんの部分の微妙な丸みと緩やかなへこみ具合、あご紐の色や太さなどがそれぞれに異なっている。小学校時代に麦ワラ帽子を手放してしまった私にとっては、この貴重な買い物は久しぶりに心ウキウキであり、まさしく「少年時代」であった。
 深夜には気温は体温辺りまで下がるが凪いでしまう。そして、日中に太陽で焼かれた家の屋根と壁は、その温度をいっこうに下げてくれない。したがって、空調装置がない部屋ではさまざまな工夫をしないと、とにかく寝られないのである。その一つの対策が、夕方の「打ち水」大作戦である。この原理は、四方ないし三方を開け放てる日本家屋の部屋の作りに適していることが改めて証明された。つまり、部屋の面前にある庭に水をまき、この水分が蒸発する小さな上昇気流に、部屋の他方から空気が流れ込むことによって生じる風で部屋にいながらにして涼を得ることが前提条件である。ところが、ここは部屋の三方が壁である。風など通り抜けるわけがない。やはり、この作戦は失敗に終わった。
          
          
 ザラットの家(中庭から)                 

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