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僻地特派員の報告
上床 和則



第43話 コモロ通信 その34

 職場に今年入社した新人がいて、赴任して20日がたつ。
 慣れない土地、文化、言語、人々、業務で、どうやら疲れ果てている。
 金曜日、この国ではイスラム教の礼拝の日で、午後から職場には現地の人々はいなくなる。
 我々日本人は夕方まで通常勤務をしているのだが、7月13日は、この新人君を含めた日本人3人で、午後から渓流に繰り出して、昼食会をすることにした。
 一般道の道端で炭火を起こし、手羽先やらマニョックを焼いているおばちゃんから大量に食料及び飲料を購入する。
 闇市でビールとワインも調達して、これで準備万端だ。
 現地雇用の運転手に指示して、比較的川幅の大きな渓流を上流に登る。
 早速、木陰の岩の上でせせらぎの音を聞きながら昼食会を開始する.
川面を吹き抜けてくる風は心地よく、岩に上でカワセミが魚を狙っている。
 こちらの香辛料で味付けされた手羽先は、非常にビールに合って美味である。
 現地雇用の運転手と馬鹿話をしながら食料をむさぼっていると、突然、渓流の小石を突き破って、頭を出した生物がいる。
ウナギだ。でかい。
 それからが大変である。
 騒いだ我々人間に警戒したのか、大きな岩の下の穴に潜り込んでしまった。
 手羽先の骨に残った肉片をエサに、その穴からおびき出す。
 骨に食いついたところの首根っこを押さえる作戦である。
 ところがどっこい、この食いついた力が半端ではない。
 また、首根っこはヌルヌルしてなかなか押さえられるものではない。
 ただ、このときの感触で、胴回り(首回り)は15cmくらいあったと思われる。
 結局、ウナギは噛み付いた骨ごと穴に引っ張り来んで、骨ごと飲み込んでしまったようである。
 漁の準備をしていない我々は、それからいくつもの手羽先の骨を飲み込まれ、大の大人が童心に帰って悪戦苦闘を繰り返したのだが、ついにウナギは本流に逃げてしまった。
 小生の帰国前に、今度は罠を仕掛ける手はずをしているのだが、忙しくてそれどころではなさそうである。ああ、まぼろしの蒲焼きになるのであろうか。
 



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