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上床 和則



第44話 コモロ通信 その35

 コモロ国にやってきて、顔を真っ白に塗りたくった女性に初めて出会ったときは驚いた。
 今ではもう慣れてしまったのだが、改めて詳しく聞いてみた。
 正体は、ビャクダン(SANTAL)の樹木を乾燥させて粉末状にし、使用時にはこれに水滴を加えてパテ状にしたものである。
 それも、珊瑚の死骸の砂利海岸に育つ、特殊なビャクダンの木だと教えてくれる。
 ただ、どうして珊瑚の砂利で育ったものでなければならないのか、説明を聞いてもよく理解できないでいる。
 これは、宗教的なお祭りや儀式で顔に塗りたくるのではなく、れっきとした化粧(MAQUILLAGE)である。
 現地では、この粉を「MAHORAISE」と、そして、このマスク状の化粧を「MSINZANO」と呼ぶ。
 因に、MAHORAISEの値段は最近高くなりつつあるようであるから、庶民の手が届く範囲ではなくなってきているのであろうか。
 最近の美容室では、顔面マッサージの後に、この美顔も行ってくれるようである。
 美顔にどのような効果があるかというと、紫外線を跳ね返す膜となり、また保湿に優れているらしい。
 どうも先入観として、太陽光と体温で直ぐにパテ状の粉が乾燥してしまい、バリバリになると思いがちだ。だが、そうではないらしく、パテ状態を保つらしい。
 また、一般的に、アフリカの女性は化粧に執着していないと思われがちであるが、とんでもない。結構おしゃれに気を使っているのである。
 きっと、外出から帰宅して、MAHORAISEを洗い流した後の、しっとりとした自分の肌を指でつまんでみて、うっとりとしているのではないだろうか。
 近々、ここコモロの職場の女性が研修で日本に行く計画が進んでいる。
「日本の街中では、女性は自国の化粧をしないと、大変失礼に当るから、外出時は必ずこのMSINZANOをしなさい」と指導したい誘惑に駆られている。
 東京の地下鉄に、顔を真っ白に塗りたくったアフリカ人女性が出現したら、周りの乗客はどのような反応を示すのであろうか。
 その時は、数歩離れて赤の他人のように彼女に同行し、その周囲の反応を是非見たいのであるが、やっとのことでこの衝動を抑えている。
 写真の女性は薄めの化粧であり、ふんだんに使う方を見ると、映画「犬神家の一族」の「スケキヨ」を連想してしまう。



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