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第8話 チュニジア通信 その8

 それにしても古代から近代まで、様々な戦争に翻弄されるのはそこに住んでいる庶民である。近代戦争の舞台の地からほど近いMatmataという丘陵地帯では、昔から岩盤を掘り抜いて家を造っている。付近を何気なく車で通行しているだけでは家があることさえ気が付かない。家をおじゃましてみると真夏の外気温度が摂氏40度を超えるなかでも部屋の温度は摂氏30度を下回って快適である。こんな所でもと言っては失礼だが、人間の生命力のたくましさには脱帽である。因みに、「お隣さんはどこにお住まいで?」と一緒になったフランス人のマダムが訪ねると、「そうだな、1kmくらい先かな?」なんてこの家の主人は平然と答えていた。もちろんお隣も地下の家だ。
 家と言えば、結婚するに当たっては嫁さんとくらす家を新郎になる者は事前に造らなければならず、また新婦に服や装飾品類を多数プレゼントしなければならないのでそりゃもう大変だ。結婚式にはこれらの全てを親類縁者、近所の皆さんに披露するのである。私の参加していたプロジェクトのドライバーもこの婚約期間2年間に必至に金を貯めているが、どうやら2間、台所ありの家だけは作って、子供が産まれた場合の部屋は増築できるよう準備したようである。
 チュニジアは7月と8月が結婚式ラッシュと聞いたが、そういえば毎日最低1回は結婚式後に装飾された車の列で近所に披露する場面に遭遇するし、多い日は5回くらい見ることができる。
 写真は、Zaratという小さな町で見かけた花嫁の輿入れ風景である。ラクダの上に花嫁用の装飾された鞍を置いているのを始めて見たし、先導する護衛のアラブ騎馬兵7名(スペクタクル用の人を雇ったと思われる)もともなう豪華な隊列を見たのも初めてだ。写真ではわかりにくいが、騎馬兵はライフルを手にしており、新郎宅に到着したら空砲をばんばん撃ちまくった。町の半分以上の人がこの輿入れの列に加わったと思われるが、とにかくすごい人だった。どこか由緒ある家柄であろうが、我が国の名古屋の輿入れもいっしょのようなものかな。

       
           花嫁の輿入れ(ザラットにて)
 

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