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いわし雲
                           鈴木 敬一



第21話 「動植物名の漢字表記

 お寿司屋さんの暖簾や湯飲み茶碗にはよく魚の名前が漢字で列記されています。しかし、戦後制定された当用(常用)漢字では魚偏がつくのは「鯨」と「鮮」だけになってしまい、漢字の魚名は教育の場からほとんど消え、日常生活のなかでも著しくなじみが薄くなってしまいました。
 新聞紙上でもポピュラーな魚以外は、ほとんどがカタカナ書きになっています。魚名だけでなく、その他の動物名や植物名も小説や俳句、和歌、詩などでの表記を除けば、カタカナ書きが圧倒的に多いようです。学術用語として使われる場合は完全にカタカナ書きです。
 しかしカタカナ表記は、単純にモノを識別する記号として機能するだけであり、そのものの実体や由来などからは、まったくかけ離れてしまい大変味気ないものとなります。
 例えば、タチウオ(太刀魚)はその銀白色の長い体型、ウルメイワシ(潤目鰯)は目が潤んで見えること、カワハギ(皮剥)は皮が剥ぎやすいことが名前の由来となっています。漢字を見れば大体は推察できます。
 先日、新聞で「ヒクイナ」の記事を見ましたが、クイナという鳥は知っていましたが、「ヒ」は何だろうと思い調べてみると「緋」であり、赤色のクイナであることが容易に推察できました。やはり新聞で「フサヒゲルリカミキリ」「オオチャイロハナムグリ」という昆虫の名前を見つけましたが、一体もとはどんな漢字をあてられていたのでしょうか。
 実体や由来、または語源などが漢字表記であれば、あるていど類推できる動植物名にはカタカナと合わせて漢字も併用すれば読む側の理解も早いし、また楽しみも倍増するのではないかと思えます。

 

   (本稿は『静岡新聞』 2004年10月7日に掲載されたものです)
 


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