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いわし雲
                           鈴木 敬一



第24話 「軍人の階級呼称

 自衛隊は軍隊であるのか。軍隊の定義にもよるが、政府は公式的には否定している。しかし、筆者は誰が何と言おうと軍隊であると考える。軍隊であるならば、自衛隊員は当然、軍人である。
 明治維新で誕生した日本の軍隊は、陸・海軍ともに欧米の制度にならい、それに類似した階級設定とその呼称を定め、昭和20年8月の終戦時まで使用されてきた。軍隊でないという軍隊、自衛隊が発足して既に60年近くになるが、その階級呼称は軍隊に非ずという理由からであろうか、一般にはなじまない旧来とは異なる独特なものとなっている。今の自衛隊での呼称、例えば一尉とか二佐とか将とか将補では、親近感は持ちえず、国民に深く溶け込むのは無理であろう。我々の国防意識にも影響を与えてきている。
 他方、旧日本軍の階級呼称も段々と忘れられ、理解されなくなってきている。ロシアの文豪、プーシキンに「大尉の娘」という小説があるが、今後いつの日か「一尉の娘」と変わってしまうのであろうか。「坂の上の雲」にも登場する日露戦争の勇士、広瀬中佐を広瀬二佐と呼ぶことに筆者は相当な抵抗感を抱かざるを得ない。
 ものの呼称や名前、表現、表記などを実体が変わらないのに安易に変更してしまうのは、歴史を冒涜し、文化を傷つけ、国語を乱す犯罪行為である。

(本稿は『日刊食料新聞』 2010年1月29日に掲載されたものです)
  

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