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いわし雲
                           鈴木 敬一

いらっしゃいませ!

第28話「新しい産業の方向」

 今、日本の輸出産業構造が大きな端境期(ハザカイキ)、転換点にさしかかっている。自動車や電気製品などの加工組立産業は、低賃金で労働集約型の国に技術が移転されれば、コスト的にはどうしても抗し難い。この分野で単純に競合しても勝目はない。
 日本が、これから世界に売り出していく産業は、高度のハイテク技術に裏付けされ環境にやさしい産業、例えば、原子力発電や新幹線関連、それに環境保全分野であろう。
 しかし、今、筆者が最も期待している部門は、日本人が長年にわたり、営々としてつちかってきたキメ細かな、手抜きを許さない職人気質に根ざした「物づくり技術」と「サービス」である。今や世界のブランド品になりつつあるユニチャームやヤクルト、カップヌードル、化粧品などが好例であるが、さらに一次産品のうちでも、果物、米、魚介類、牛肉などが海外市場において、その味の素晴らしさで近年とみに脚光を浴びている。日本の沿岸魚は味覚、種類、季節性(旬)の点で比類を見ないほど卓越している。
 また、外国では余りお目にかかれない顧客に対する誠実で細やかな応対とサービスは、日本人の伝統的な美徳であり、日本売り込みの有力な武器となりえよう。例えば外国ではお目にかかれない歯医者、美容室や理髪店の技術と気配り、トイレ(ちなみに日本以外ではウォシュレット式はほとんど皆無)、時間に正確な鉄道、「いらっしゃいませ」の挨拶など。また、あるチェーンレストランのメニューに記載されていた「スマイル 0円」という言葉。いずれも昨今やや希薄になってきていて憂慮されるが…。 

 
(本稿は『日刊食料新聞』 2010年2月26日に掲載されたものです)
  

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