放課後は
さくら野貿易
さくら野貿易 放課後のページ


いわし雲
                           鈴木 敬一


第30話「郷に入っては郷に従え」

 ボディ・ランゲージと関連しているが、日本では極めて当たり前の動作や挙動が、他の国では著しく無礼で侮辱的行為になり、場合によっては許されざるタブーに触れることさえあるので注意が肝要である。
 例えば、アラブ世界やヒンズー教徒の間では左手は不浄と見なされているので、左手で物を食べるのは厳禁である。贈物を受け取ったり、お金を持つのも右手に限定される。日本では子供の頭をなでることは愛情表現としてごく自然であるが、インドでは頭は神の宿るところであり絶対に許されない。タイやマレーシアでも同様である。
 日本人はあまり気にせずに人前で靴をぬいだり素足になったりするが、他人に足や靴の裏を見せないのはアラブ人のマナーであり、また、欧米やアジアの国々でも足の禁忌は多い。海水浴場は例外だが。
 常識的に無作法だ、見苦しいと思われる振舞はやはりどこの国でも同じであり、できるだけ避けたい。ポケットに手を入れての応対、ガムをかみながらの会話、指で人を指す、口笛、やたらと体に触れる、指パッチン、大声で騒ぐことなど。
 ただし、日本国内で、外国人には不可思議に映っても長い間、風習や慣例として許されてきたことをあえて変えることは不自然であり、その必要はない。モリソバを音を立てて食べることや熱い飲物を息を吹きかけてさますこと、銭湯や温泉に裸で入浴すること(ヒナびた温泉他での混浴も)、道行く人に気軽に気候の挨拶をすることなど。
 「郷に入っては…」と同じように西洋でも「ローマにあってはローマ人の如く振舞え」という諺がある。その地、その民族、その宗教のシキタリや風習、文化に敬意を払おう。
 
(本稿は『日刊食料新聞』 2010年3月12日に掲載されたものです)
  

[執筆者紹介]  [ 掲載一覧 ]