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いわし雲
                           鈴木 敬一


第31話「オリンピック雑感」

 今回の冬季五輪で日本は金メダルなしの5ヶのメダルを獲得、選手の健闘は大きな感動を与えてくれたが、どこか物足りなさが多分に残った大会であった。特に隣国の中、韓両国の活躍が目ざましかったことや事前の期待が大きかっただけにその感が深い。
 スポーツは必ずしも国威発揚の場でもなければ国力の評価尺度でもないというクールな見方もあろう。しかし硝煙の消えた平和な今日、間違いなく五輪は夏冬とも世界最大の祭典であり、選手個人だけでなく国家にとっても大きな栄誉とプライドが関わっている集いである。ロシアの大統領は今回の歴史的な敗北結果に激怒し、担当大臣の進退問題にまで発展した。他方、金メダル数が断トツ一位の主催国カナダは「GO CANADA GO」を合言葉に「カナダは一つになった」と大変な盛上りを見せた。今日の日本にとって、五輪は政治も経済も沈滞し閉塞しきっている現状を打破し、国民の心を沸き立たせ、「日の丸」「君が代」の下に素直に国をあげて一体となれる最大の催の場であろう。ちなみに韓国ではメダルを獲得したことによる経済効果は1.6兆円以上との試算が出ている。経済的、社会的波及効果は極めて大である。
 選手の育成、強化には金がかかる。かつては企業にかなり依存してきたが昨今の不況下でそれも難しくなり、あとは国の支援に期待するしかない。国家の援助でメダルを取ることは健全な行き方ではく、また五輪にのみ強化費を増やすことはその他のスポーツとの公平性を欠くとの批判がある。しかし、驚くべきことに今回の五輪に対する日本の補助金はわずか27億円で、ドイツの10分の1、中国の5分の1、韓国の4分の1という低さである。「なぜ世界2位ではいけないのか」と言って学術予算やスポーツ振興予算を削るような事業仕分けは大いに反省してもらいたい。長い目での国全体の費用対効果を考えるべきである。

 
(本稿は『日刊食料新聞』 2010年3月19日に掲載されたものです)
  

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