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いわし雲
                           鈴木 敬一



 第6話 「病気とストレス

 昨年末、私は眼底出血を患い、危うく失明の危機一歩手前までいった。幸い、卓越した技量を有する医師の手当てにより、現在は完全に回復したが、発病の原因は急激な血圧の上昇にある。私は今まで何十年もの間、血圧で指摘を受けたことは一回もなかった。しかし血圧は常に安定しているものではなく、何らかの原因やはずみで急速に危険範囲に入ってしまうことがあるが、ストレスが一番の要因という。考えてみると、ここ数ヶ月間、気持ちが落ち着かずイラつき怒声を発することがしばしばあった。
 「私達は日常生活の中で往々にして役者になる必要がある。役者は役柄により喜怒哀楽を巧みに表現して観客の心を揺さぶっているが、あくまでも演技であり、まともに怒ったり、泣いたり笑ったりしているわけではない。私達も仕事や家庭生活などにおいて興奮し、叱責し、怒り声を出さざるを得ない場面にまま遭遇するが、演技で対応し、本気になって興奮せず、その振りをすることが肝要。大半の病気はストレスによって引き起こされるのであるから」というのが、私が治療を受けている名医のアドバイスであった。
 もっともだと思うものの果たして私のような単純な性格では、どこまで演技ができるか、それも相手にそうとは悟られずにやることは、役者の素質のない私には至難の業の近い。
 十年近く前に米国で、「小さいことにくよくよするな」という本がベストセラーになった。ここには、「1、小さいことにくよくよするな。2、全ては小さなことだ。この考え方を人生に取り込めば、もっと穏やかで愛情豊かな自分を育てることが出来る」と、ストレスを持たない典型的な生き方が示されているが、山ほど問題を抱えている現在の私にとって、理屈は理解するもののどこまで実行できるか、大変不安である。

   (本稿は『水産週報』 2006年3月15日に掲載されたものです)


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