さくら野文壇
【書評】
『不道徳教育講座』(三島由紀夫 角川文庫) 小説ではなく枕草子のようなエッセイである。 各章は七十近くあり、それぞれが五、六ページほどで終了するので通勤通学のお供にちょうどいい。 まず、章の多さに驚き、次に章の題名でひくりと笑ってしまう。なので、電車の中で読む場合には顔を俯けておいたほうがいいだろう。 例えば 「できるだけ己惚れよ」 曰く、うぬぼれる人が最後に勝つ。 「沢山の悪徳を持て」 曰く、極端は良くない。 「人に尻尾をつかませるべし」 曰く、女はどうでもいいことでも秘密らしく匂わせ、男は秘密は共有する情報とする。 等、秀逸である。できれば実行に移してみたいが、なかなかできない。 中には彼の思想がはっきりと伺える評論もあるが、それがどんな題名と内容を持つのかは秘密にしておこう。 各章ごとに読んでもいいが、前述のとおりそれぞれが非常に短いので最初から読んでも構わないし、ぱらぱらとめくり目についた面白そうな章から読んでもいいだろう。 私は、学生時代、講義レポートの参考資料程度くらいで読んでいた覚えがあるが、読み返してみるとなかなか面白い。 初版は昭和四十二年だから四十年近く前の作品だが、内容は現代の感覚とさほど変わりはなく、「なーんだ、父や母が昔の人はエライとかどうとか言っていたけど、やってることは今とあんまり変わらないじゃないの」と思えることは間違いない。 一度目を通してみてはいかがだろうか。 (2005.6.26. 奥 三佳子) |
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