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万葉恋歌
中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む
上野亮介
第17葉(巻14・3404)
上野
かみつけの
安蘇
あそ
の
真麻群
まそむら
かき
抱
むだ
き
寝
ぬ
れど飽かぬを
何
あ
どか
吾
あ
がせむ
これも東歌。作者は、
上野
かみつけ
国(今の群馬県あたり)の若者です。
「
何
あ
ど」は「
何
なに
」の方言。
安蘇
あそ
は里の名前です。きっと麻の産地だったのでしょう。「安蘇の真麻群」は、安蘇で取れた麻の束のことです。その麻の束をかき抱いて寝たけれど満足できない、俺はいったいどうしたらよいのか。歌自体の言葉をそのまますなおに鑑賞すると、そういう意味になります。恋人のいない若者が麻の束を抱いて寝たわけで、まことに哀しい。「どうすればよいか」と問われても、どうしようもありません。
「安蘇の真麻群かき抱き」が東歌にありがちな比喩だとすると、意味はまるっきり変わって、「麻の束をかき抱くように彼女を抱いて寝たけれど、それでも飽き足りない、このうえ俺は何をすればよいのか」。この青年、彼女のことが好きで好きでたまらない。
共寝
ともね
をして愛し合ってもまだ満足しない。その燃える思いを歌ったことになります。
彼が抱いて寝た相手は、麻の束なのか、女なのか、謎です。作者の境遇としては天地の隔たりがありますが、どっちに転んでも快作というべきか。
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