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万葉恋歌

中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む

                     上野亮介



 第24葉(巻11・2554)

 あひ見ては おもかくさるる ものからに ぎてまくの しき君かも

 出会うとつい顔を隠してしまうのに、ずっと見ていたいあなたよ。

 「面隠す」ではなく「面隠さる」。自然に、つい、思わず、顔を隠してしまう、という意味です。なぜ顔を隠すのか。恥ずかしいからです。お互い向き合ったとき、彼女はちょっとうつむいたり、両手を頬に当てたりしてしまう。なぜそんなに恥ずかしいのか。彼のことが好きだからです。自分の方は顔を隠してしまうのに、彼の凛々しい姿はずっとずっと見ていたい。

 もう一度、原歌を口ずさんでみましょう。

 
あひ見てはおもかくさるるものからに ぎてまくのしき君かも

 三十一文字しかない短い詩句ですが、初々しい乙女の仕草が目に見えるようです。恋する乙女の胸の内が、乙女らしいすなおさで表現されています。相手の男は、会うといつも、熱いまなざしで、可愛い彼女の顔を正面から見つめたのでしょうね。



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