放課後は
さくら野貿易
放課後のページ

さくら野歌壇

万葉恋歌

中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む

                     上野亮介



 第32葉(巻10・1924)

 大夫ますらをが 伏しなげきて 造りたる しだり柳の かづらせ 吾妹わぎも

 大夫ますらをが伏して座って嘆いて作ったしだれ柳の髪飾りです。これをつけてください、いとしい人よ。

 今度の“ますらを”は、「
雄心をごころ」がないだの「うつし心」がないだのと、言葉を並べるだけの男ではありません。彼女のためにかづら(髪飾り)を作りました。そんなの作り慣れていないでしょうから、相当苦労したはず。作っている自分の姿を「伏しなげきて」と描写しているところがおもしろい。うつぶせになって作った。チョコンと座りこみ背中を丸めて作った。泣きながら作った。“ますらを”がそうまでして作った髪飾りなのだから、という感じがよく出ています。だから、どうかあなたの髪につけてくださいと。同じ“ますらを”の歌でも、単に嘆くだけの前二首よりいいですね。行動が伴っている。それがこの歌を生き生きとしたものにしています。きっと不細工な髪飾りであったでしょうけど、それでも彼女は、人のいないところで髪につけたと思いますよ。



『万葉恋歌』掲載一覧

【これまでのさくら野歌壇】
2007年 2006年 2005年 2004年 2003年 2002年 2001年