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さくら野歌壇

万葉恋歌

中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む

                     上野亮介



 第52葉 (巻14・3441)

 まとほくの 雲居くもゐに見ゆる いもに いつか到らむ 歩めこま

 遠くの雲の下に見える彼女の家に、いつ着くのか、早く着きたい、さあ、歩め、わが愛馬よ。

 これは
あずまうた。恋人のところへ向かう男の歌です。風景がとても広いですね。たぶん関東平野でしょう。山のない地形、広い空、平原を渡る風、そこを駆ける馬。畿内や瀬戸内とは明らかに天地が異なる。乗馬の妻問いはもちろん畿内でもありましたが、この歌のような感じにはならない。恋する男の雰囲気も、みやこびととはちがいます。馬を急がせる若者には、何の屈託もなさそうに見えます。歌の調子も作者の気分も、のびやかです。
 当時の中央とはひと味ちがう
東国とうごくの歌を、これからしばらく見ていきましょう。



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