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さくら野歌壇

万葉恋歌

中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む

                     上野亮介



 第53葉 (巻14・3413)

 かはの 川瀬も知らず ただわたり 波にふのす へる君かも 

 利根川の浅瀬がどこかわからず、まっすぐ渡って波にあうように、そのようにして逢ったあなたよ。

 比喩がおもしろい。「利根川の川瀬も知らずただ渡り波に遭ふ」までが比喩です。「ただ渡り」の「ただ」は「まっすぐ」の意。関東随一の大河です。それを一直線に渡ったら、当然、波をかぶります。その次の「のす」は方言で、「〜のように」。つまり、大波をザブンをかぶったようだ、と言っているのです。いい男に出くわしたのでしょう。それも突然に。一目惚れです。この比喩でそれがわかる。言い得て妙です。この娘さん、何か無鉄砲なことをしでかしたのかもしれませんね。その途上で彼に出会ったのかもしれない。いかにも東国風で、とても感じのよい歌です。



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